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2021/11/30

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MISSION

健全な水環境を未来へ

河川や湖沼へ流出した医薬品成分や病原微生物に着目。
ヒトや生態系への被害が顕在化するまえに予防的対策を講じるべく、
環境工学だけでなく、生物学、水産学、分子生物学など
幅広い分野の研究者と協力し、
ヒトおよび生態系を守る研究を進めています。

WORK

近年、下水処理場の処理水から生理活性の高い状態の
医薬品成分が見つかっています。

日本では、工業用の化学物質や農薬についての
水質環境基準は整備されてきましたが、
人由来の医薬品成分による環境汚染については
対応が遅れています。

当研究では、環境水中に流入した医薬品成分が
生態系へ与える影響を把握し、
科学的根拠に基づいた汚染医薬品の適切な管理を目指します。

目的1

汚染医薬品による
水生生物への影響を判断する

下水/河川水の汚染医薬品濃度調査

下水や河川水中に含まれる汚染医薬品濃度を培養細胞試験によって調査しています。
Gタンパク連結型受容体(GPCR)に作用する医薬品の活性を測定できる「TGFɑ shedding assay」というin vitroアッセイを世界に先駆けて日本の下水や河川水に適用しました。

また、抗うつ薬の活性を定量できる細胞試験を世界に先駆けて下水へ適用することに成功しました。

魚での医薬品影響濃度の把握

医薬品由来の成分が、どの程度の濃度で生態系に悪影響を与えるのかを知るため、
魚での暴露試験を実施できる研究グループと共同研究を開始しました。
魚の行動をビデオカメラで撮影し、行動を解析。
異常行動が見られる濃度を把握し、
医薬品ごとの影響濃度を調べる予定です。
*長崎大学との共同研究

目的2

微⽣物による
⽔環境汚染の実態の把握と由来の推定

 ⾝の回りの⽔環境中にはさまざまな病原微⽣物が存在し⼈健康への影響が懸念されます。例えば近年国内外での研究が盛んなされている薬剤耐性菌は、先進国でも制御が必要と認識されています。我々は、琵琶湖や淀川流域を対象⽔域として、リアルタイムPCRや次世代シーケンサを⽤いて、薬剤耐性菌を含む細菌の汚染実態とその由来を把握する研究を⾏っています。また、ウイルスの存在にも注意が必要です。家庭や病院等からの下⽔中には様々な病原ウイルスが含まれており、それらの多くは下⽔処理過程で除去されます。しかし、⾬天時の下⽔処理場では、下⽔に⾬⽔が混⼊して⽔量が増加するので、下⽔処理場から下⽔が溢れる事態をさけるため、下⽔を処理せずに⽔域へ放流してしまうことがあります。その場合、病原ウイルスも放流先の⽔域へ除去不⼗分のまま排出されることになり、実態をきちんと把握し、制御⽅法を研究する必要があります。

目的3

下⽔から得られる感染症情報の活⽤

 ⼀⽅で、下⽔処理場には周辺⼈⼝の糞便が集積するので、下⽔で測定したウイルスデータから周辺⼈⼝での感染状況を効率的に把握できる可能性があります。このような学問をWastewater-based epidemiology (下⽔疫学)と呼びます。これまでに我々は近畿地⽅の下⽔処理場で下⽔中のSARS-CoV-2をPCRで毎⽇測定することで、SARS-CoV-2の新規感染者の増減に伴って下⽔中のウイルス量が増減する様⼦を捉えることに⽇本で初めて成功しました(2021年3月9日 日本水環境学会COVID-19タスクフォースwebセミナーにて発表)。下⽔から得られる感染症情報を活⽤することで、医療機関における⼈検体検査では捕捉できない市中でのSARS-CoV-2の感染を検知できる可能性や、収束の判断の根拠に使える可能性があります。また、この⽅法を応⽤して⾼齢者施設や病院等の施設下⽔でSARS-CoV-2感染を早期発⾒できれば、感染者を迅速に隔離することで施設内でのクラスター発⽣を防⽌できる可能性もあります。